2013年09月17日

天国には行けない。[その土曜日、7時58分]

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『その土曜日、7時58分』
製作:2007年・アメリカ
監督:シドニー・ルメット(『十二人の怒れる男』『評決』)
脚本:ケリー・マスターソン
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク 他
【公開時コピー】「その瞬間、一つ目の誤算」
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洒落た邦題だな、と思っていましたが、
実際に本編を見た後には、キャッチーだけど表面的だな、と考えが変わりました。
(多分、和訳アレンジが難しかったのだと思いますが…。)
悪い例えだと「ヤギと男と男と壁と」みたいな感じ? 中身理解してねえだろ、お前!!みたいな。
…勿論、あれほど短絡的ではないと信じたいですが。

ちなみに原題は「Before the Devil Knows You're Dead(あなたが死んだことに悪魔が気付く前に)」です。
(冒頭でもこの言葉がテロップで流れます。)
これは、『死んだことを悪魔に気づかれる30分前に天国に行けますように』という、
アイルランドの慣用句?か何かから引用しているようです。

アホな私は、この原題の解釈でものすごく悩みました。
が、とある人物への最後の警告、と受け取るのが一番しっくりくるかなと。
私は本編通して、その人を庇う気持ちが、何故かずーっとどこかにあったのですよ。何でかな。

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娘の養育費もまともに払えない冴えない男、ハンク(イーサン・ホーク)。
そんな彼に兄のアンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)はある強盗計画を持ちかける。
狙うのはなんと彼らの両親が営む宝石店。
ハンクとは対照的に、会計士として働き、美しい妻ジーナ(マリサ・トメイ)にも恵まれて、
不自由ない生活を送っているかに見えたアンディにも緊急に金が必要なワケがあった。
ためらうハンクだったが、アンディに言葉巧みに説得されてしまう。
しかし、いざ実行に移す段になって怖じ気づいたハンクは、男を金で雇い、自分は車で待機することに。
すると、宝石店から予想もしていなかった銃声があがり、強盗が失敗に終わったことを悟るハンクだったが…。
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まずは感想。面白かったです。

邦題に謳われた「その土曜日、7時58分」に起こる事件の、1つ目の誤算に端を発し、
ある家族の根底にあった、数多くの確執が浮き彫りになり、そして破滅へと向かっていく。
その行程を、シンプルに無駄なく、且つエッジを効かせて描いています。

とある兄弟の強盗計画を発端とし、その計画と実行、そして結果、と展開していくのですが、
1つの時間軸において、複数人物の視点を描くために時間を巻き戻す手法が使われています。
(私はあんまり観てないから知らないのだけど、タランティーノ監督もよく使うそうです。)

「強盗●日前」とか、戻る時間軸はバラバラなんですが、
1回シーンが戻るたびに、登場人物達の背景が少しずつ明かされていきます。
それは、セリフ一言だったり、表情だったり、行動だったり、と様々な要素なのだけど、
見事なのは、それらが必要最低限でしか与えられないということ。

例えば。
アンディのセリフ『親父だったらよかったのに。』からの、
お葬式後にパパと話した後の車中、『何で今更そんなこと!!!』という取り乱しとか。
そこから推察される親子関係とか、それ以上語られませんが、容易に想像できるつくりになっている。

これらはミステリー的な伏線回収という訳ではなく、観客のことを信頼して、委ねている。
言葉で説明せずに伝える、という、非常に整理された脚本・演出だと思います。
(日本映画、とりわけ大作は、状況・背景説明が多過ぎる。見習って頂きたい。)

説明されない=それとなく観客に気付かせる要素、という点について1つ余談ですが、
ライムスター宇多丸さんの批評で「父親が実は相当悪かった」ことが分かる描写、実は私は少し違う解釈で。
以下、完全にネタバレますよ。

宇多さんの本では、息子に手をかけるシーンの心拍数がほぼ変わらないことで
「殺人に慣れている=悪かった」という解釈もあるね、ということだったんだけど、
私は、どんなに後悔し「愛している」と言ったって、結局アンディは実の息子じゃないから、
心拍数ほぼ変えずに、「もう、いいんだ。」とか嘘言いながら、冷静に殺すことが出来たのかな、と。
ハンクは多分、実の息子なんだろうね。だから見逃したのかな、と。

アンディの名刺のシーンから最後までは、もう何か圧倒的なスピード感というか、
アクション映画にもないくらいの疾走感と、ラストの悲劇に向かっていく絶望的な悲壮感。
巨匠、80過ぎてなお健在、という感じでした。
(とはいえ、本作を遺作としてお亡くなりになっているんですが。合掌。)


それと、個人的に、特に印象深かったのは、ホフマンの破壊衝動。
部屋の家具や装飾品を、次から次へと破壊するシーンがあるのですが、ここが凄いです。
自分の部屋を荒らすシーンて、叫びながら、ものすごい勢いで物を破壊するのしか見たことなかったんだけど、
本作では、ゆっくりなんです。家具や装飾品も、ゆっくり1つずつ壊していくの。

石の置物がが沢山入ったガラス皿のインテリアがあって、
これもゆっくり傾けて、その石が全て零れ落ちた後、またゆっくりとテーブルに皿を置くんです。

石については、歯車が狂ったことで総崩れになってゆく暗喩もあるかなとは思うんだけど、
確かに、現実にこんなことが起きた時の破壊衝動って、こういう感じかも、とリアリティがあるんです。
名シーンだと思います。てか、名演技・名演出、かな。

キャストについては、言うことなしです。
フィリップ・シーモア・ホフマンが上手いのは知ってます。が、この役ハマリ過ぎ。
長男の貫禄と、息子としての余裕のなさを併せ持つバランスが絶妙です。
あと、イーサン・ホークね。
私、この人のダメ男役を見たことなかったんですが、ハマると強いですね。
イケメンが故、イイ感じに、憎めないダメっぷりです。
2人の父親はアルバート・フィニー。見たことあるなと思ったら「ビッグ・フィッシュ」の父親役でした。
(余談ですが「ビッグ・フィッシュ」は私の見てきた中でトップ1、2を競うくらい好きな洋画なのです。)
この人もイイ演技するんですよ。終始危うく緊迫した感じとか、尾行シーンからラストにかけての迷いない眼光とか。
トラウマ的に、鬼気迫る感じ。いやはや、脱帽でした。

ちなみに、脚本担当のケリー・マスターソンは本作がデビューだそうです。すげえな。
ポン・ジュノ監督(『グエムル』『母なる証明』)のハリウッド・デビュー作、
「スノウピアサー」(2014年公開)の脚本も手がけているようで、これも鑑賞決定。


過去のルメット作品を(あろうことか『十二人の怒れる男』さえも)見てない私が偉そうに語れないのですが、
本作は傑作です。本当に。これ映画館で見ておくべきだったなあ。
でもDVDで見たからこそ、めぐる考察の醍醐味も感じられる作品なので、
未鑑賞の方には、自信を持ってお薦め出来る作品です。

posted by tanako at 19:46| Comment(0) | 洋画巨匠に触れる。 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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